質問者 「解離性同一性障害(多重人格)について,私も少しは勉強しているつもりですが,分からないことがあるんです」
回答者 「はい,何でしょう?」
質問者 「人格が,ケーキを切り分けるように,幾つもの部分に分かれるという現象が起き得ることは,おぼろげながら,分かるんです。
そして切り分けられた人格部分は,もとの人格とは全く別の性格を持つというのも理解できます。なぜなら,主人格が内側に秘めて,外に出すことを許されなかったキャラクターが,別人格として創り出されるのでしょうから。...人の心って複雑なので,そういうメカニズムもあり得るのだろうと思います」
回答者 「はい」
質問者 「でも,そうやって現れた別人格(人格部分)はなぜ,名前や年齢,性別,生活史まで,もとの人格とは全く別のものになるのでしょう?もとの人格が東京育ちのハナコ(20歳)だとしたら,別人格は神戸育ちのイザベラ(27歳)...といった具合に。そのあたりが,多重人格のうさん臭さというか,演技的な詐病っぽさを醸し出している気がするのですが...」
回答者 「たしかに,コーネリア・B・ウィルバー先生が治療した全16人格の症例シビルなどは,ノンフィクション小説(「失われた私」フローラ・R・シュライバー著)にもなっていますが,治療の部分も含め,全編をとおしてかなり劇画調ですよね。ただ,この小説の中に,その質問に対する答えは明確に示されていると思います。
名前や生活史が全部,違うものになる理由。それは,別人格でいる間は,少なくとも,あのどうしようもなく救いようがない母親を,自分の母親だと思わなくてすむからではないでしょうか。そのためなら,ウィロー・コーナーズに住む少女シビル・イザベル・ドーセットは,【パリに家族を残してこの街にきたヴィクトリア】になることをも,いとわなかったんでしょうね」
(回答者 : 本庄児玉病院 外来医長 新谷宏伸)